【感想】『スタープレイヤー』(恒川光太郎)
友人に勧められた本。
タイトルの「スタープレイヤー」は願いを10個叶えることを認められた選ばれし人間のこと。
主人公は異世界に飛ばされて願いを10個叶えられる権利を授けられる。
自分のことにばかり願いを使うのかと思いきや、話はどんどん予想と違う方向に…
予想のつかない方向に話が進むので一気に読み切ってしまった。
異世界に転生して願いが10個叶うって言われたら私はどうするだろう。
ちなみにこの本の「スタープレイヤー」が頼める願いにはいくつか制約があって、万能ではない。
たとえば願いを使って死んだ人を生き返らせたり人を若返らせたりすることはできるけど、不老不死は不可能。
「おいしいものをお腹いっぱい食べたい」とか「幸せになりたい」とかの定義が分かりにくいことを頼むことはできない(夕張メロン100個ほしいみたいな具体的なのは可能)。
異世界には自分の知っている人は誰もいないけど、願いを使って現実の世界の誰かを呼び出すことはできる。
設定がけっこう細かい。
私だったら
・理想の容姿
・理想の住環境(家や庭)
・理想の生活環境(買い物とか趣味とか)
あたりに願いを使うと思う。
本当は家族や友人を呼び出したいけど、このシステムだと転生した人間はあくまでコピーであり、元の世界ではいなくなったことにはならず存在し続ける仕組みらしい。
元の世界に戻ろうとするとおそらくコピーは(自分でも他人でも)行き場がないので消滅してしまうそう…
自分ならともかく、他人を勝手に呼び出して戻れなくするのはかわいそうだからできないかな…
というわけで私は10個も使いきれそうになかった。
この本の主人公は異世界に突然飛ばされて、最初は自分の欲望にまかせて願いを使っていく。
でも新しい世界で他のスタープレイヤーや現地人と出会い、他人やもっと広い世界の幸せのために願いを使うようになっていくところがおもしろかった。
そして願いを叶えられるなんかすごい力を持っているんだと異世界の人に知られ、崇拝されて悩むところがとても人間らしかった。
願いは有限なので、考えずになんでも叶えていたらあっという間になくなってしまう。
私は自分のこととして考えたらとこっちが心配になる。
一方で願いさえ残って入ればどうにでもなる世界に飽きてしまう登場人物もいて、人って色々だと思った。
主人公が異世界にはまだ存在しない文明の利器を呼び出すことについて、そもそもやっていいことなのか、自然に発明されるのを待つべきなのか考える場面があった。
異世界は現代の日本よりやや文明が遅れている。
国家や部族は存在するが、電気が通った程度に発達したところもある。
主人公は迷った末に弓矢で戦っているような文明に自分が考えた「多くの人が幸せになれるもの」を与えたけれど、みんながきっと幸せになれるだろう、という上から見た理由で優れたものを勝手に持ってきていいのか、考えてしまった。